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二作目の動画を制作するにあたって書いたイメージストーリーです。
動画ではわかりにくい箇所の補足になれば幸いです。
お暇な時にでもどうぞ。よろしくお願いします。
動画ではわかりにくい箇所の補足になれば幸いです。
お暇な時にでもどうぞ。よろしくお願いします。
『夢も守れないで、歌えるわけないでしょ?』
ステージへと続く薄暗い通路で振り向き、光を背にして彼女はそう言い、そして笑った。
他のメンバーも、同じように微笑む。
今日のこの舞台に上がれば、何億という莫大な契約金を棒に振る。
彼女たちの輝く未来に、闇を落としてしまうことになる可能性だってある。
しかし彼女は、彼女たちの歌を、歌うことを選んだのだ。
だから俺も、彼女たちに笑顔を返し、彼女たちをステージへと送り出す。
彼女たちを待っているファンのために、そして――彼女たち自身のために。
金のためではなく、生きるためでもない。
夢を、守るために。
その電話が鳴った時、俺以外のみんなは、ちょうど出払っていた。
みんな、と言っても、俺を含めて五人しかいない、小さな事務所だ。
あのステージのあと、俺たちはスポンサーの大半を失った。
所属していたレコード会社から追い出され、そしてここに移った。
彼女たちの実力と人気を考えたら、似つかわしくない場所ではあるが、背に腹は代えられない。
『昔に戻ったみたいで、懐かしいです』
『力を合わせて頑張りましょう。もう一回、みんなで』
『勝ち上がっていくには、これくらいがちょうどいいわね』
そう言って笑った彼女たちは、不安や心配とは無縁のようだった。
そうだ、俺は彼女たちを信じている。
必ず、もう一度、ここから……大舞台へと這い上がってみせる。
ここへ来て何度目になるだろうか。
俺は、壁に貼ってある彼女たちのポスターを眺めて、そして拳を握りしめた。
ギターの音無小鳥、ベースの三浦あずさ、ドラムの秋月律子。
そして――
電話が鳴ったのはちょうどその時だった。
一人で熱くなっていたせいか、受話器を取るのが何となく気恥ずかしかった。
「はい、こちら765レコード――」
取材の申し込みだろうか、それともライブハウスからの出演依頼だろうか。
電話をとった俺は、そんな風に……気楽に考えていた。
しかし、受話器の向こうから聞こえてきた男の声は、とても穏やかにこう言った。
「彼女」が、死んだ、と。
駅から事務所へ向かう道には交番があって、俺はその前を、毎日通っている。
交番の前には掲示板がある。
「詐欺にご注意」とか「この顔を見たら110番」とか、そんなありふれた貼り紙のそばに、その日の事故件数が掲示されるプレートがある。
今朝も俺は、負傷者何名、死亡者何名……そんな妙に生々しい数字が並んでいるのを、何気なく眺めながらこの事務所へ来たのだ。
他人事だ。ちゃんと注意を払っていれば事故になんて――。
そう思っていた。今、この瞬間まで。
電話の向こうの男は、交通事故だと言った。
道路の反対側に母親の姿を見つけて飛び出した子供が、大型トラックに轢かれそうになった。
「彼女」はその子供を突き飛ばして助けたが、「彼女」がはねとばされて死んだのだそうだ。
病院の名前と場所、トラックの運転手のこと、「彼女」が助けた子供のこと。
他にも色々と説明を受けた。
でも、何も頭に入ってこない。
目の前が、暗く、閉ざされていく。
築き上げようとしたものが、音を立てて崩れていく。
掴もうとしていたものが、手をすり抜けて離れていく。
何も、考えられなかった。
あのステージがきっかけで、契約を棒に振って以来、俺たちはメディアから干されていた。
それでも俺たちは、実力で栄光を掴んでみせる、と決意していた。
それが、どうだ。
鳴りっぱなしの電話。連日押し寄せるリポーターの群れ。
俺たちに襲いかかった出来事は、あいつらのメシの種でしかない。
「彼女」の死を知った小鳥たちにとっては、絶望はさらに深い。
バンドのリーダーは小鳥だが、メンバーの心を一つにし、まとめ上げていたのは「彼女」だ。
あずさは立ち上がる力すらなくし、ずっと泣いている。
明るく、いつもほがらかなムードメーカーは、今はもう見る影もない。
小鳥は呆然としていて……現実を避けるように、脅えている。
俺と話す時は平静を装っているが、壊れる寸前だ。
律子を抑えるのが大変だった。
常にクールで、他のメンバーの手綱を握ってリードする彼女だが、「彼女」が助けた子どもの親は、子どもを放置してパチンコ店で遊んでいたと知り、殺してやる――と大暴れしたのだった。
彼女たちの傷は深く、時間でさえ、それを癒せるかどうか分からない。
そしてそこへ塩を塗り込むかのように、ヤツらは押しかけてくる。
「契約していたレコード会社との軋轢があったというのは――」
「ドラッグに手を染めていたという噂が――」
「自殺という見方も――」
そうやって、俺たちの気も知らず、「知る権利」とやらを振りかざし、
さも……視聴者のために正しい報道をしているのだ、というヤツらの態度が、
俺にはとても許せなかった。
唇を噛み、殴りつけたい衝動を何度も抑えた。
身体は、怒りと悲しみに震えた。
早すぎる、突然すぎる「彼女」の死を……俺たちはまだ、受け入れられないでいた。
「彼女」の葬儀が終わった。
のこされた小鳥たち三人は、泣くだけ泣いて、涙も枯れ果てていた。
「彼女」の死を悼んだのは、俺たちだけではなかった。
わずかに数人の、俺たちが世話になった業界の……心ある人たち。
そして、少なくない、ファンの人々。
「彼女」の棺が運び出され、火葬場へと向かう時、彼らは歌いはじめた。
「彼女」の歌だ。
希望に満ちた、あの歌だった。
俺の心にずっと張り詰めていた糸が、その時切れたような気がした。
堪えていた涙が、止めどなくあふれ出た。
「彼女」の歌声は、そしてその信念は、こんなにも多くの人々に、しっかりと伝わっていたのだ。
小鳥は、もう楽器を取るつもりは無い――「彼女」なしでのバンドは考えられない、か細い声でそう言った。
俺も意見は同じだった。俺にできることは、もう残っていないと思った。
しかし、それは違う。
『カッコいいと思わない?』
「彼女」の言葉が蘇る。
『みんなが夢を見てる。それをずっと、ずっーと、守り続けるの』
そのために歌うこと、戦うことが、自分の生き様だ、と「彼女」は言った。
俺たちは「彼女」の言葉に心を動かされ、ここまで来た。
だから、ここで諦めてしまえば、それは「彼女」の意志に反する。
なぜなら、俺たちは――
ステージへと続く薄暗い通路で振り向き、光を背にして彼女はそう言い、そして笑った。
他のメンバーも、同じように微笑む。
今日のこの舞台に上がれば、何億という莫大な契約金を棒に振る。
彼女たちの輝く未来に、闇を落としてしまうことになる可能性だってある。
しかし彼女は、彼女たちの歌を、歌うことを選んだのだ。
だから俺も、彼女たちに笑顔を返し、彼女たちをステージへと送り出す。
彼女たちを待っているファンのために、そして――彼女たち自身のために。
金のためではなく、生きるためでもない。
夢を、守るために。
その電話が鳴った時、俺以外のみんなは、ちょうど出払っていた。
みんな、と言っても、俺を含めて五人しかいない、小さな事務所だ。
あのステージのあと、俺たちはスポンサーの大半を失った。
所属していたレコード会社から追い出され、そしてここに移った。
彼女たちの実力と人気を考えたら、似つかわしくない場所ではあるが、背に腹は代えられない。
『昔に戻ったみたいで、懐かしいです』
『力を合わせて頑張りましょう。もう一回、みんなで』
『勝ち上がっていくには、これくらいがちょうどいいわね』
そう言って笑った彼女たちは、不安や心配とは無縁のようだった。
そうだ、俺は彼女たちを信じている。
必ず、もう一度、ここから……大舞台へと這い上がってみせる。
ここへ来て何度目になるだろうか。
俺は、壁に貼ってある彼女たちのポスターを眺めて、そして拳を握りしめた。
ギターの音無小鳥、ベースの三浦あずさ、ドラムの秋月律子。
そして――
電話が鳴ったのはちょうどその時だった。
一人で熱くなっていたせいか、受話器を取るのが何となく気恥ずかしかった。
「はい、こちら765レコード――」
取材の申し込みだろうか、それともライブハウスからの出演依頼だろうか。
電話をとった俺は、そんな風に……気楽に考えていた。
しかし、受話器の向こうから聞こえてきた男の声は、とても穏やかにこう言った。
「彼女」が、死んだ、と。
駅から事務所へ向かう道には交番があって、俺はその前を、毎日通っている。
交番の前には掲示板がある。
「詐欺にご注意」とか「この顔を見たら110番」とか、そんなありふれた貼り紙のそばに、その日の事故件数が掲示されるプレートがある。
今朝も俺は、負傷者何名、死亡者何名……そんな妙に生々しい数字が並んでいるのを、何気なく眺めながらこの事務所へ来たのだ。
他人事だ。ちゃんと注意を払っていれば事故になんて――。
そう思っていた。今、この瞬間まで。
電話の向こうの男は、交通事故だと言った。
道路の反対側に母親の姿を見つけて飛び出した子供が、大型トラックに轢かれそうになった。
「彼女」はその子供を突き飛ばして助けたが、「彼女」がはねとばされて死んだのだそうだ。
病院の名前と場所、トラックの運転手のこと、「彼女」が助けた子供のこと。
他にも色々と説明を受けた。
でも、何も頭に入ってこない。
目の前が、暗く、閉ざされていく。
築き上げようとしたものが、音を立てて崩れていく。
掴もうとしていたものが、手をすり抜けて離れていく。
何も、考えられなかった。
あのステージがきっかけで、契約を棒に振って以来、俺たちはメディアから干されていた。
それでも俺たちは、実力で栄光を掴んでみせる、と決意していた。
それが、どうだ。
鳴りっぱなしの電話。連日押し寄せるリポーターの群れ。
俺たちに襲いかかった出来事は、あいつらのメシの種でしかない。
「彼女」の死を知った小鳥たちにとっては、絶望はさらに深い。
バンドのリーダーは小鳥だが、メンバーの心を一つにし、まとめ上げていたのは「彼女」だ。
あずさは立ち上がる力すらなくし、ずっと泣いている。
明るく、いつもほがらかなムードメーカーは、今はもう見る影もない。
小鳥は呆然としていて……現実を避けるように、脅えている。
俺と話す時は平静を装っているが、壊れる寸前だ。
律子を抑えるのが大変だった。
常にクールで、他のメンバーの手綱を握ってリードする彼女だが、「彼女」が助けた子どもの親は、子どもを放置してパチンコ店で遊んでいたと知り、殺してやる――と大暴れしたのだった。
彼女たちの傷は深く、時間でさえ、それを癒せるかどうか分からない。
そしてそこへ塩を塗り込むかのように、ヤツらは押しかけてくる。
「契約していたレコード会社との軋轢があったというのは――」
「ドラッグに手を染めていたという噂が――」
「自殺という見方も――」
そうやって、俺たちの気も知らず、「知る権利」とやらを振りかざし、
さも……視聴者のために正しい報道をしているのだ、というヤツらの態度が、
俺にはとても許せなかった。
唇を噛み、殴りつけたい衝動を何度も抑えた。
身体は、怒りと悲しみに震えた。
早すぎる、突然すぎる「彼女」の死を……俺たちはまだ、受け入れられないでいた。
「彼女」の葬儀が終わった。
のこされた小鳥たち三人は、泣くだけ泣いて、涙も枯れ果てていた。
「彼女」の死を悼んだのは、俺たちだけではなかった。
わずかに数人の、俺たちが世話になった業界の……心ある人たち。
そして、少なくない、ファンの人々。
「彼女」の棺が運び出され、火葬場へと向かう時、彼らは歌いはじめた。
「彼女」の歌だ。
希望に満ちた、あの歌だった。
俺の心にずっと張り詰めていた糸が、その時切れたような気がした。
堪えていた涙が、止めどなくあふれ出た。
「彼女」の歌声は、そしてその信念は、こんなにも多くの人々に、しっかりと伝わっていたのだ。
小鳥は、もう楽器を取るつもりは無い――「彼女」なしでのバンドは考えられない、か細い声でそう言った。
俺も意見は同じだった。俺にできることは、もう残っていないと思った。
しかし、それは違う。
『カッコいいと思わない?』
「彼女」の言葉が蘇る。
『みんなが夢を見てる。それをずっと、ずっーと、守り続けるの』
そのために歌うこと、戦うことが、自分の生き様だ、と「彼女」は言った。
俺たちは「彼女」の言葉に心を動かされ、ここまで来た。
だから、ここで諦めてしまえば、それは「彼女」の意志に反する。
なぜなら、俺たちは――
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